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『僕が放出を選んだ理由』を発刊しました

10分で読める80円本シリーズ 第5弾

クレセント出版はこのたび、10分で読める80円本シリーズ第5弾として、
僕が放出を選んだ理由
を発刊しました。

本書は、一見するととても静かな本です。
大きな事件が起きるわけでもなく、劇的な成功談があるわけでもありません。
けれど読み終えたあと、不思議と心に残るものがあります。

テーマになっているのは、「町を選ぶ」という、ごく日常的な行為です。

人生の選択は、たいてい条件検索から始まります。
家賃、駅からの距離、通勤時間、間取り、周辺環境。
数字を入力し、候補を並べ、無難な答えを探していく。
著者が二十年前、大阪への転勤をきっかけに住む町を探したときも、出発点はまさにそこでした。

特別な理想があったわけではない。
会社へのアクセスが悪くないこと。
家賃が予算内であること。
子どもが遊べる公園が近くにあること。

そうして選ばれたのが、放出でした。

この作品のおもしろさは、町選びの話でありながら、不動産や移住の話だけで終わらないところにあります。
放出という地名を口にしたときに生まれる、ほんの少しの間。
「あ、放出ですか」と言われるまでの、あのわずかな沈黙。
その空気を、著者はとても繊細にすくい取っています。

整ったイメージの町ではない。
他県から来た家族が、積極的に憧れて選ぶ場所でもない。
それでも、実際に住んでみれば、そこにはふつうの暮らしがある。
スーパーがあり、幼稚園があり、夕方には自転車の音がする。
その「何でもなさ」が、本書ではむしろ大切に描かれています。

編集の過程で特に印象に残ったのは、家族の言葉が土地に染まっていく場面でした。
愛知県生まれの子どもが、いつの間にか大阪の言葉を話し始める。
最初は説明の必要があった地名が、やがて生活そのものになっていく。
そして成長した子どもが、自分の出身地を「大阪」と答えるようになる。

この変化は、派手ではありません。
けれど、人がどこに根を下ろすのか、家族の記憶はどこに積み重なっていくのかという問いを、静かに立ち上がらせます。

本書は、移住の成功談ではありません。
地域を持ち上げるための賛美でもありません。
どこにでもある町で、どこにでもある家族が過ごした時間を通して、
「出身地とは何か」
「人はどこを故郷として引き受けていくのか」
をそっと考えさせてくれる一冊です。

条件で選んだ町が、いつの間にか家族のアイデンティティになっていく。
その時間の積み重なりを、短いページ数の中に丁寧に収めた作品になりました。

10分で読める小さな本ですが、読み終えたあと、自分の町、自分の育った場所、自分の家族の会話を少し思い返したくなる。
そんな読後感を持った一冊です。

ぜひご覧ください。

ご訪問ありがとうございました
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編集部より

文章を整えたり、構成を考えたりしながら、本づくりの裏側を支えています。
読みやすさと、考える余白のバランスを大切にしています。

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