クレセント出版として、最初の一冊が世に出ました。
タイトルは『理想の値段 〜28の声が問う、自治の未来〜』。
「10分で読める80円本シリーズ」の第1弾です。
短い。安い。けれど、軽い話ではありません。
舞台は、雪国の地方都市。
深夜の市役所で、ひとりの職員が予算表と向き合っているところから、物語は始まります。
足りないのは、たった300万円。
しかし、その300万円がなければ、ある村は冬の間、孤立してしまう。
この「たった300万円」という現実の重さから、この物語は動き出します。
主人公の田村慎一が作ろうとしたのは、「住民の声で街を動かす」ための、28の地域協議会という仕組みでした。
理想は、きれいです。
けれど現実は、きれいでは済みません。
「数字がすべてだ」と語る上司。
「参加より除雪だ」と迫る議員たち。
財政、政治、そして目の前の暮らし。
理想は、何度も揺さぶられます。
それでも田村は、制度を動かそうとする。
そのために選んだのは、「未来への借金」という、少し危うい選択でした。
制度は動き出し、27の地域で小さな成功が生まれます。
住民が関わり、声が反映され、少しずつ街が動いていく。
しかし、その一方で、
たった一つの不正が、「住民自治」という言葉そのものを揺るがす事件として噴き出します。
一つの失敗で、すべては否定されるのか。
それとも、27の積み重ねは信じるに値するのか。
「信じること」には、どれほどの代償が伴うのか。
この物語は、そこを正面から問いにいきます。
本作は、架空の自治体を舞台にしたフィクションです。
けれど扱っているのは、「予算」「制度」「政治」「住民参加」という、現実的なテーマです。
理想は、正しいだけでは通らない。
でも、数字だけでも、街は生きられない。
その狭間で揺れる人間たちの選択を通して、
「理想の値段」とは何なのかを、静かに問いかける物語になっています。
10分で読める短編です。
けれど、読み終えたあと、ニュースで見る「予算」や「制度」という言葉の見え方が、少し変わるかもしれません。
少なくとも、そういう本を目指して作りました。
クレセント出版について
クレセント出版は、「考える時間のための本」をつくる小さな出版レーベルです。
すぐに答えが出る話よりも、
読み終わったあとに、少しだけ考えが残るような本を、少しずつ積み上げていきたいと思っています。
この『理想の値段』が、その最初の一冊になります。
ここから、ゆっくりですが、続けていきます。
どうぞ、気長にお付き合いください。

