10分で読める80円本シリーズ 第10弾
クレセント出版はこのたび、10分で読める80円本シリーズ第10弾として、
『百年先の仕事: 津田永忠に学ぶ設計思想』
を発刊しました。
本書は、「仕事はどこまで先を見て設計できるのか」という問いを、歴史の現場から静かに考えていく一冊です。
きっかけとなるのは、岡山県にある旧閑谷学校。
三百年以上前に作られたこの学校は、いまも歪まず、静かな存在感を保っています。
石塀は崩れず、講堂は凛と残り、その場に立つと、時間の厚みそのものに触れるような感覚があります。
本書は、その風景を前にした素朴な疑問から始まります。
なぜ、この建物はここまで長く残っているのだろうか。
そして、その問いをたどる中で浮かび上がってくるのが、岡山藩の家臣・津田永忠という人物です。
津田永忠は、干拓、治水、道路、教育施設など、多くの公共事業を手がけました。
けれど本書が注目しているのは、彼の仕事量の多さだけではありません。
その本質は、すぐに成果が見える仕事ではなく、長い時間に耐える仕事を設計していたことにあります。
編集の過程で特に印象に残ったのは、本書が津田永忠を単なる歴史上の偉人として描いていないことでした。
むしろ、現代の私たちが仕事を考えるための鏡として、その設計思想を読み直そうとしている。
そこに、この本のいちばん大きな魅力があります。
閑谷学校の石塀は、三百年以上を経た今も崩れない。
整えられた水路は、いまも地域の地形の中に痕跡を残している。
それは、目先の完成や短期的な成果だけを目指していたら生まれにくい仕事です。
百年先、あるいはそれ以上の時間に耐えることを前提にしなければ、こうした形にはなりません。
本書は、実際に閑谷学校を訪れた体験を入り口にしながら、津田永忠の仕事をたどり、
「百年先を見据えた仕事」とは何か
を静かに問いかけていきます。
忙しい日々の中では、どうしても目の前の締め切りや成果が優先されます。
それ自体は当然のことです。
しかし本書を読んでいると、ときには別の時間感覚を持ってみることも必要なのではないかと思わされます。
この仕事は百年後にも意味を持つだろうか。
いま作っているものは、自分がいなくなったあとも残るだろうか。
そんな問いが、歴史の風景を通じて自然に立ち上がってきます。
この本の良さは、説教くさくないところにもあります。
長期視点が大事だと声高に主張するのではなく、現地で感じた違和感や驚きから、少しずつ考えを深めていく。
だからこそ、歴史に詳しくない読者にも入りやすく、また、経営や設計、まちづくり、教育に関わる人にもそれぞれの読み方ができる一冊になっています。
10分で読める小さな本ですが、読後には「仕事の寿命」という感覚が少し変わるかもしれません。
すぐに評価される仕事だけが仕事ではない。
静かに残り続ける仕事にも、別の価値がある。
本書は、そのことを歴史の現場から思い出させてくれます。
シリーズ第10弾にふさわしく、目先の効率とは別の時間軸を提示してくれる一冊になりました。
日々の忙しさの中で、一度立ち止まって仕事の長さを考えてみたい方に、ぜひ手に取っていただきたい本です。
ぜひご覧ください。

