10分で読める80円本シリーズ 第6弾
クレセント出版はこのたび、10分で読める80円本シリーズ第6弾として、
『一・五センチの窓: 北海道メモを読んだ友人の独白』
を発刊しました。
本書は、少し変わった位置から書かれた作品です。
北海道を移動しながら暮らし、働く人の記録を、その当事者自身ではなく、ひとりの友人が読後に語る。
その構造によって、旅の記録はそのまま「観察の文学」のような手触りを持ち始めます。
タイトルにもなっている「一・五センチの窓」は、湿気を逃がすためのささやかな工夫です。
けれど本書では、その小さな隙間がそのまま、移動する生活をのぞきこむための窓にもなっています。
大げさな象徴ではなく、あくまで実用から始まるところに、この作品らしさがあります。
本書に出てくるのは、いわゆる旅の名場面ではありません。
観光名所でも絶景でもなく、回線速度、電源、結露、洗濯、駐車場の端、財布の軽さといった、生活の条件ばかりが並びます。
そして不思議なことに、その条件がひとつずつ満たされた瞬間、読み手の中にも静かな安心が立ち上がってきます。
編集の過程で印象的だったのは、この作品が「旅を外から見た本」でありながら、決して距離を取りすぎていないことでした。
語り手は、北海道メモを読み終えた友人です。
駅前のカフェで、リハビリ帰りの指先の鈍さを抱えながら、ページの向こうにいる「移動する生活者」を見つめていく。
その視線には、批評と共感の両方があります。
ただ面白がるのでもなく、ただ憧れるのでもない。
少し離れた場所から、静かに理解しようとする目線が、この本全体の温度を決めています。
旅人なのか、仕事人なのか。
その境界が少しずつ溶けていく感覚も、本書の大きな読みどころです。
空港ではなく峠が境界線になる。
湯気の中で振込を済ませる。
乾燥機待ちの時間に甘エビ丼に救われる。
そうした描写のひとつひとつが、旅と生活と仕事を分けて考えること自体が、もう少し古い感覚なのかもしれないと気づかせてくれます。
本書が優れているのは、移動する暮らしを美化しないところです。
自由を語る前に、まず段取りがある。
景色の前に、通信と電源がある。
場所が変わっても、つながり方だけは変わらない。
そんな現実の芯を、友人の独白というかたちで静かに浮かび上がらせています。
読後に残るのは、大きな感動というより、じわりとした理解です。
人は移動していても、結局は生活をしている。
そして生活している限り、そこにはその人なりの工夫と条件と、譲れない感覚がある。
この本は、そのことを非常に小さな入口から丁寧に見せてくれます。
10分で読める小さな本ですが、視点の置き方がとてもおもしろく、シリーズの中でも独特の余韻を持つ一冊になりました。
旅を書く本でありながら、読むことそのものについても書かれている。
そんな二重の味わいを持った作品です。
ぜひご覧ください。

