10分で読める80円本シリーズ 第7弾
クレセント出版はこのたび、10分で読める80円本シリーズ第7弾として、
『ノマドワークは泥だらけ: 日勝峠の向こうで暮らす』
を発刊しました。
本書は、いわゆる「ノマド生活」のきらびやかなイメージを、静かに裏返していく一冊です。
ノマドワークという言葉から、多くの人が思い浮かべるのは、自由で軽やかな働き方かもしれません。
好きな場所へ行き、景色のいいカフェでパソコンを開き、土地を楽しみながら仕事をする。
そんな像はたしかに魅力的です。
けれど本書が描いているのは、そうした表面の華やかさではありません。
風呂の湯を入れ替えるところから始まる朝。
洗濯物の乾き具合を見ながら組み立てる段取り。
通信環境と電源の確保を最優先に考える感覚。
回線速度が出た瞬間にようやく安心できる、現実のノマドワークです。
編集を通して強く感じたのは、この作品が「旅の本」であると同時に、「生活の本」でもあることでした。
旅の始まりは、空港でも駅でもない。
生活の続きを別の土地へ運ぶところから始まる。
その捉え方が、本書全体の温度を決めています。
日勝峠を越えるたび、世界の空気が切り替わる。
その変化を、観光案内のような言葉ではなく、身体感覚として書いているところにも、この本らしさがあります。
境界線は地図の上にあるのではなく、先に身体が知ってしまう。
その感覚が、淡々とした描写の中にしっかり息づいています。
また本書は、移動する働き方を美化しません。
寒い夜に宿が取れることが奇跡になる日もある。
寿司屋で名刺が動き、北海道の夜に大阪の予定が生まれる。
請求書を送り、空港のカウンターで仕事をし、帰宅後にはWi-Fiを再起動する。
そうした現実の断片が積み重なることで、「自由」と「段取り」が切り離せないことが見えてきます。
特に印象的だったのは、この旅が結局、Wi-Fiで始まりWi-Fiで終わっているという感覚です。
風景でも、温泉でも、グルメでもない。
もちろんそれらも旅の一部ではあるけれど、働きながら移動する人間にとっては、通信と電源こそが土台になる。
その身もふたもないリアルさが、本書を単なる旅エッセイでは終わらせていません。
タイトルにある「泥だらけ」という言葉も象徴的です。
本書にあるのは、キラキラした自由ではなく、泥のついた段取りの記録です。
だからこそ、読後に残る実感があります。
生活が続く限り、旅も続く。
その感覚は、移動する働き方をしている人にとってはもちろん、そうでない人にとっても、働くことと暮らすことの距離を考えさせるものになっています。
10分で読める小さな本ですが、その中には、旅と仕事と生活が切り分けられない時代の手触りがしっかり詰まっています。
ノマドという言葉に少し距離を感じている人にも、逆に憧れを持っている人にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
ぜひご覧ください。

